[続]偽装労組
偽りの連鎖が、今はじまる。
偽りの連鎖が、今はじまる。
2022.06.30
前回Vol.7に引き続き、京都北部を営業エリアとする生コン協同組合=京都生コンクリート協同組合(京都協組。以下、同協組)と、加盟社に対する関生支部の武建一前委員長、および湯川裕司・現委員長(当時、副委員長)の恐喝事件を取り上げる。まず、それまでの経緯を改めて振り返ろう。
同協組は専属の傭車会社として、小型ミキサー車専門の(有)ベストライナー(京都市。岩本将健代表取締役=当時)を1997年頃設立。しかし2002年、ベストライナーの日雇い従業員は、会社の待遇に不満を持ち関生支部に加入。同年10月15日、関生支部の分会を立ち上げ、会社に通告し、正社員化を要求した。ベストライナー側は、従業員の正社員化に応じなかったが、関生側は、同協組加盟7社のうち関生支部組合員との間で労使関係があるとみなされていた5社に対して、<スト>などと呼ばれる出荷妨害等で圧力をかけた。同協組理事らは、2008年頃、出荷妨害に耐えかね、当時、ベストライナーの日雇い従業員だった湯川被告(現関生支部委員長)ら、関生支部組合員7名が正社員になることを認めた。武被告は、<解決金>名目で、同協組に6,000万円を要求し、同協組は現金を用意した。ここまでが前回Vol.7までの経緯だが、この6,000万円は、恐喝事件の対象にはなっていない。
検察側冒頭陳述などによると、湯川被告らはベストライナーの正社員になっても、もっぱら関生支部の組合活動に従事し、会社の仕事はせず。一方で会社側は湯川被告らに給与を支払い続けた。このことでベストライナーは、赤字経営に陥った。関生支部は、ベストライナーの経営が悪化すると、同協組に補填を要求するようになり、同協組はベストライナーに月数百万円の補填を強いられることになった。関生支部は2012年頃、同協組がベストライナーに対して多額の貸付けをすることで、ベストライナーを債務超過状態にしている、同協組がK氏なる人物を使ってベストライナーを解散しようとしている、これらは不当労働行為である、と謝罪文書への署名を同協組各社に要求した。しかし、加盟社の<近畿生コン(株)>(京都市)の田上正男社長は、これに応じなかった。このため関生支部は<近畿生コン>に対して、同年4月10日から6月25日までの間、出荷妨害を行った。田上社長は、約3カ月間にわたる出荷妨害行為に音を上げた。状況を目の当たりにした同協組は、関生支部との交渉役だった<(株)京都生コン>(京都市)の久貝博司社長(当時)を、<近畿生コン>への出荷妨害を中止するための条件について、武被告に聞きに行かせることにした。
久貝社長が武被告に出荷妨害中止の条件を聞いたところ、武被告は「(近畿生コンの)田上(社長)さんが謝罪文に応じなかったでしょ。その解決金として4,000万円支払って欲しい」と言い、解決金4,000万円を支払うよう要求した。田上社長は、関生支部による更なる出荷妨害行為への畏怖から、解決金名目で4,000万円を支払うことにし、自社で4,000万円を用意した。関生支部との交渉役、<京都生コン>の久貝社長は、2012年6月25日、同協組で現金4,000万円を受け取り、武被告に全額支払った。同協組がベストライナーに補填した金額は、2008年8月頃から2014年7月頃までの期間で、合計4億円余りに上った。
同協組では、ベストライナーへの補填が同協組の経営を圧迫していたことから、同協組の営業本部長である<(株)京都福田>(京都市)の福田俊夫取締役らが、同社の解散を検討するようになった。これが1億5,000万円の恐喝事件が起きた背景である。
同協組は、<京都生コン>の久貝社長を交渉役に、武被告とベストライナーの解散を話し合うことになった。久貝社長は、2013年3月、大阪市西区の関生支部3階の応接室で武被告と会い「ベストライナー解散したいんですけどできませんか」と聞いた。これに対して武被告は「できんことはないですよ。別途、雇用保障するとか、退職金とか、いろいろありますけど。あと、解決金としてお金出して下さい。1億5,000万円出して下さい」と、ベストライナーで雇用されている関生支部組合員を、同協組加盟社で雇用するとともに、解決金1億5,000万円の支払いを要求した。久貝社長は武被告からの要求を同協組理事らに伝えた。検察側は、このとき湯川被告は、武被告が1億5,000万円を要求後、恐喝について共謀したとしている。同協組理事らは、ベストライナーに雇用されている関生支部組合員を、加盟各社で雇用することは承服しがたいことだった。さらに、要求された金額が1億5,000万円と、余りにも多額であったことから、ただちに武被告の要求に応じなかった。同協組理事らが、2014年2月末とされた支払い期限までに要求に応じなかったことから、武被告の指示に基づき、関生支部は同年3月5日から同月10日までの間、労使関係があるとみなしていた5社に対して連日、組合員を各社の敷地内に滞在させ、従業員の動静を監視させるなどして、生コンの出荷を阻止した。久貝社長は、同年3月10日、関生支部の出荷妨害に耐えかね、武被告に改めて解決金の支払いを含む要求に応じることを約束した。武被告は、履行期限を同年5月末までとした。
武被告は、同年3月13日に開催された<近畿地区生コン関連団体懇談会>と称する、関生支部組合員と同協組理事を含む近畿地区の生コン製造会社の経営者が参加する会合で、こう発言した。「3月5日から日曜、土曜日入れると約1週間近く工場止まったんですよ。7つの工場のうち5つも止まったんです。約束を履行しないからストライキになっているわけですよ。今ストライキしたらつぶれるところも出てくるかわからん。それでもストライキせざるを得ないですよ。(会社側が)やるべきことをやらないやらないから。問題整理しなかったら、何も進まないうちに決裂する可能性がありますよ」。
その後、同協組に加盟する4社は、関生支部による出荷妨害を恐れ、同月17日、関生支部との間で、ベストライナーの従業員7名の雇用責任を同協組が負うこと、同協組が関生支部に対して解決金を支払うこと等を内容とする<協定書>を作成した。しかし<近畿生コン>の田上社長は、関生支部に反対する立場を明確にしており、協定書の作成には応じなかった。
武被告は、同年3月25日、関生支部で開催された、関生支部側が同協組理事らに様々な要求をする<京都集団交渉>で、先に述べた<協定書>の内容を確認し、こう発言した。「(協定書には)協同組合は、7人の退職金始め撤退に当たっての解決金を支払うようなことも入っている。それも履行対象になっているんですよ」。
次回も引き続き1億5,000万円恐喝事件の顛末について追う。