KURSレポート
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2022.12.12
そんな訓練の中で、地震体験車と共に体験者の多かったのが、生コン車が協力した放水訓練だ。
開会の約30分後、会場の近くに待機していた3台の生コン車が、サイレンを鳴らした救急車の先導で入場し、実践に即した放水訓練が始まった。
まずは生コン車で運んだ防火用水を、メイン会場に設置された簡易水槽に溜め、その水をポンプで汲み上げて、長く伸ばしたホースの先から放水する。
この訓練では、消火用水を兵庫コンクリート株式会社・第一生コン株式会社の10t車計3台が運搬、ポンプの操作と放水を消防団がサポートし、先端の放水部分を中学生や地域住民が体験する。
南あわじ市の住宅地域には狭い路地が多いため、大型の消防車が入りづらい。そこで前述の方法で消火することが多い。その際、近くに川や用水路があればいいが、なければたちまち消火用水に困る。そこで生コン車の出番となる。生コンプラントは水を多く使うため、上水道以外に地下水も使っている。なので災害で水道が止まったとき、この地下水が大いに役立つのだ。
同訓練への生コン会社の参加は、2020年2月、広域協と、兵庫県淡路島の淡路市・洲本市・南あわじ市の3市との間で、災害時における用水等の供給支援に関する協定が締結されたことがきっかけだ。これを機に淡路ブロックの5社6工場も、今回から島内一斉の総合防災訓練に参加することとなったのだ。
広域協では、組合の理念である<三方良し(売り手良し・買い手良し・世間良し)>の考えに沿って、自治体との防災協定締結を進めている。
これまで広域協では大阪府、大阪市、東大阪市、八尾市、兵庫県、芦屋市、西宮市、たつの市、伊丹市、三田市、加西市、姫路市などと協定が締結され、加盟プラントが地域社会の一員として、防災訓練に参加してきた。
地域密着型といわれる生コン関連業界だからこそ、有事には地域社会のお役に立ちたい。その具体的な方法が、生コン車による水の運搬だ。このことは2016年、新潟県糸魚川市で起きた大規模火災の際、地元の生コン車が消火用水の運搬の一翼を担ったことが背景にある。
このような地道な活動により、災害時の生活用水や消火用水の運搬に生コン車を活用するということが、人々の間で少しずつではあるが認識されつつある。我々、広域協加盟プラントで働く生コンワーカーも、地域貢献に参加することができるのだ。
▼当日、会場におられた関係者のお2人に、話をうかがいました▼
大阪広域生コンクリート協同組合 淡路ブロック ブロック長
兵庫コンクリート株式会社 専務取締役
碇 勝徳 氏
訓練の当日、現場を視察していた、広域協淡路ブロックの碇勝徳ブロック長(兵庫コンクリート株式会社専務取締役)に、今回の訓練への参加についてお話をうかがった。
「ウチはもともと生コン以外に、杭打ちや散水用に現場へ水を届けることがあったんで、自社で地下水の汲み上げ設備を備えていました。なので、今回の参加は、地下水の用途がひとつ増えたということで、こういう形で地域のお手伝いができるのは、非常にうれしいことだと思っています」。碇氏は、笑顔で応えてくれた。続けて、「ウチも他のプラントも、実際、これまで地域との関わりはほとんどありませんでした。でも広域協に加盟したことで、2020年に淡路市・洲本市・南あわじ市と防災協定を締結でき、このような訓練に参加することができました。これを機に個社としても、ブロックとしても、ようやく地域に貢献ができるようになったんです。また今回のような訓練はもちろん、地域の方々は、こんなに間近で生コン車の排出作業を見ることがないと思いますので、これを機に生コンの仕事に興味を持っていただければ、業界のイメージアップにもつながるのではないでしょうか」と、参加に至った経緯やメリットについて語ってくれた。
ところで今回の取材を前にして、生コン車はふだん生コンを運んでいるのだから、水も同じように運べばいいのでは?と思っていたのだが、実はそうではなかった。碇氏によると、「コツと言うほどではありませんけど、生コンの場合は計量しているんですが、水の場合は目安で注水するので、入れすぎると走行中にこぼれる恐れがあります。気を付けていても減速時や発進時なんかに、どうしても後ろからこぼれてしまう。だからドラムの半分位までに止めるんです」。たしかに水自体は汚くないのだが、水は生コンと違って粘度が低く波打ちやすいため生コン車の後部からこぼれ、それが汚水と思われてしまう。水を運搬する際には、これも大切な注意事項だ。またそれ以外にも、事前に運んでみてわかったことがあると言う。
「打ち合わせでは、10t車1台で約4tの水を運ぶことになっていました。でも事前にテスト放水をしてみたら、10分もかからずカラになった。それで昨日、水槽に12t入れて、それでも足りないだろうということで、今日さらに10t車が3台(1台に4t積載×3台=12t)来て合計24t。水圧にもよりますが、それで40分~1時間の放水を想定しています」。なるほど、これは経験した人間にしかわからないポイントだ。これから防災訓練に参加する予定のあるプラントは、この碇氏の言葉が参考になるはずだ。
訓練を見守る碇氏に、今後の活動についてお聞きした。
「ここは大都市ではないので、役所内にも顔見知りの方もおられますし、私自身も団員として消防団活動をしているので、今回つながりを活かして、今後いろいろお役に立ちたいと思います」と、笑顔で応えてくれた。
また、実際の災害に際しては、「有事の際は、1社で対応するのは難しいので、隣接したプラント同士の連携を密にして、話し合いながら協力していけたら、より効率的に活動できますね」と、ブロック内での連携の大切さを強調した。
広域協への加入、防災訓練への参加と、社会とのつながり方において新たな局面に入った淡路ブロックの5社6工場。今回の訓練への参加を機に、地域防災に、またそのほかの社会貢献活動にと、これからも頑張ってもらいたい。
南あわじ市 危機管理部長 兼 市長特別補佐
喜田 憲和 氏
各訓練の動きが落ち着いた中盤に、主催者側、南あわじ市の危機管理部長であり、市長特別補佐の喜田憲和氏に、訓練に対する思いについてうかがった。
「この訓練は南あわじ市発足の翌年、平成18年(2006年)から毎年1回やっています。思いとしては、一言で言うと死者をゼロにしたい。そして負傷者をできるだけ少なくしたい。そのためには意識と知識を持ってもらうことが重要ということです」と、喜田氏。理由は、有事の際には、行政はほとんど助けに行けないからだと言う。公助は、阪神淡路大震災のとき、自衛隊も警察も消防も頑張ったが、残念ながら22%の方しか助けられなかった。さらにそのことを、より実感できる事例を、喜田氏は話してくれた。「実は南あわじ市は人口が約4万5千人なんですが、市内に救急車が2台しかないんです」。たしかに同市内で救急車が2台では、災害時にはほとんど機能しないに違いない。
「そんな状況ですから、もちろん公助も頑張りますが、まずは自分たち(自助・共助)で何とかしのいでいただきたい」と、言葉に力をこめる。そのための意識と知識を持ってもらうのが、年1回行われるこのような総合防災訓練だ。「まずは意識することが大切ですね。イメージする・準備する・確認する・訓練するという4つの行動が重要です」。このような市側の行動や思いをくんで、市民の意識もたいへん高い。
「今日この会場には、周辺の100名前後しかお声掛けをさせていただいておりませんが、いま市内に203ほどの自治会がありまして、ほかの方々は、今朝、サイレンが鳴った後、地域の公会堂などに集まって個別に訓練をしています」。うかがえば、コロナ渦でも約5千人、コロナ前には、毎回約1万人の方が参加されていると言う。
ここで、今回、初参加となる生コンプラントに対する思いを語っていただいた。
「実は以前、友好市町の新潟県糸魚川市で大規模火災があったとき、消火用水確保の難しさを思い知りました。それで大阪広域生コンクリート協同組合さんとの協定締結を機に、ご協力をお願いしたという次第です。水槽への給水は用水路などからもできますが場所が限定される。災害発生時、生コン車での消防用水の輸送もお願いできればさらに心強い。本当に感謝しています。訓練では、サイレンを鳴らした消防車に先導されて10t車が3台入場しましたが、あれはものすごくインパクトがありましたね」。災害時は、防火用水のほかにも、トイレなどの生活用水や、被災家屋の清掃用など水は大量に要るので、生コン車による運搬は消火用水だけでなく、広範囲でお役に立てるに違いない。
最後に、今後の防災訓練の展開についてお聞きした。
「先ほども話しましたけど、今は役所も人や予算を減らしていますので、公助というのはなかなか難しい。ですから生コン業界さんだけではなく、いろんな企業さんに協力していただきたい。まず自助、その次に隣近所、そして次に企業さんが出てくる。そうして市民同士で助け合っていただけると、すごく雰囲気も良くなると思います。それに企業さんは、それぞれ得意分野があると思いますので、それを発揮していただけるということは、素晴らしいことだと思います。これからも年1回、この訓練を続けていきたい」と、力強い言葉で締めくくってくれた。
専門分野が活かせるなら、もっと多種多様な業界でも災害に貢献できる。今後も、様々な業界と協定締結の輪を広げて、市民のために精力的に活動していただきたい。
当日は、取材を行った南あわじ市の会場以外に、島内3カ所で一斉に同様の総合防災訓練が行われた。岩屋会場(岩屋中学校)、洲本会場(洲浜中学校)でも、広域協加盟・淡路ブロックの生コンプラントが参加し、消火用水を運搬した。
今回は、自治体と防災協定を締結した淡路ブロックの社会貢献活動をレポートしたが、我々、生コンワーカーひとりひとりも、それぞれが地域社会の一員だ。防災協定締結の有無にかかわらず、災害や有事には、自分たちのできることで地域に貢献できるよう、ふだんから心がけたい。