KURSレポート
KURSや仲間の活動情報をタイムリーに。
KURSや仲間の活動情報をタイムリーに。
2020.01.31
日本コンクリート工学会近畿支部 設立25周年記念イベント
~知って、笑って、描きたい。コンクリートとその先に~
2019年12月21日(土)、大阪科学技術センター(大阪市西区)において、公益社団法人 日本コンクリート工学会(以下、JCI)近畿支部設立25周年記念イベントが開催された。今回のイベントのキャッチコピーは<知って、笑って、描きたい。コンクリートとその先に>だ。
参加者は約220名、うち非会員が約80名と、コンクリートに関心のある技術者や研究者、一般の方々の参加で大いに盛り上がった。
プログラムは、そのキャッチコピーを地で行くように、講演あり、座談会あり、そしてなんと『コンクリート物語』という<創作落語>まである。このユニークな内容へのこだわりは、開会の挨拶を行った、JCI近畿支部支部長 永山勝氏の言葉の中にもみることができた。
「本日のイベントは、色とりどりの内容を企画しました。特別講演が3つに座談会、創作落語まであります。『えっ落語?!そんなことできるの?』実はそんな声が内輪でも出ましたが、我々実行委員会ではいろんな意見を煮つめて、本日の開催にこぎつけました。ここ(にこだわるの)が近畿支部の良いところだと思っております」と永山氏。またキャッチコピーについては「<知って、笑って、描きたい。コンクリートとその先に>のコピーは、支部執行委員約50名の中から公募して、応募のあった17作から選ばれた1作。それぞれの言葉は、本日の各プログラムの内容すべてに関連しています」。永山氏は、固いコンクリートの話をもっと分かりやすく親しみやすいものにしたい!というイベント実行委員会の方々の企画意図と意気込みを、ていねいに説明した。
この後、近畿支部のあゆみを紹介したのち、来賓として参加したJCI会長 芳村学氏の挨拶につづき、各プログラムがはじまった。
特別講演は、近畿支部を語るのに触れずにはいられないテーマ、発生から25年を迎える阪神淡路大震災をテーマとした2講演、そしてさまざまな分野の若い先生方を壇上にお招きしての座談会、続いて関西の国土計画や万博、IRにかかわる整備など、関西一円の整備計画に関する1講演、最後に創作落語と、一般の方にも親しみやすい内容が続く。それぞれの概要を紹介する。
最初の特別講演は、土木分野から、九州工業大学名誉教授・阪神高速道路技術センター技術顧問の幸左賢二氏による『阪神淡路大震災から25年目を迎えて(土木構造物)』だ。
幸左氏は、阪神高速道路公団で設計を担当しておられた当時、ご自身も震災に遭われた。当日、自転車で会社へ向かわれた道中で、信じられない光景を多く目にしたと語る。
「最も衝撃的だったのが、阪神高速道路3号神戸線の〈ピルツ構造(橋梁部分)〉が倒れていたことです。なぜピルツが壊れたかというと、塑性(そせい)ヒンジができるところ(大きな地震の力がかかり損傷した部分)に段落としをしていた(縦方向の主鉄筋の量を変えていた)んです。(不思議に思って)当時の図面を見ましたが、非常に真面目な経済設計でした。ところが後から見ると、それが結果的に非常に危険な設計になってしまっていた」と、幸左氏。この後、実は倒壊したピルツ区間の段落とし部分補強工事が、交通状況や環境などの問題で先延ばしになっていたことに対し、技術者としての反省と悔しさを、言葉少なに語っておられた。
一方で、コンクリートについては、「(倒壊に関して)コンクリートの問題はほとんどありませんでした。また生コンの供給に関しても全く問題は無かった。つまり生コンが復興のネックになることはなかった」と、きっぱり。コンクリート関係者としては、内心少しホッとすることができた。
最期には、もし今の関西に同じ規模の地震が来たらどうなるか?という問いに対して「死者は半数ぐらいにはできるのではないか?」と、冷静に判断。続けて「(関西には)木造住宅の密集地域もまだまだ多い。国や自治体で出来ない部分をどうするか…」と、技術者らしい目線で今後の課題を語り、講演を終えた。
2番目の特別講演は、建築分野から、京都大学名誉教授・竹中工務店技術顧問の渡邉史夫氏による『阪神淡路大震災から25年目を迎えて(建築構造物)』だ。
渡邉氏は、阪神大震災から現在までの25年の間、建築に携わる人間がどのようなことを行ってきたかについて語ってくれた。
まずは、これまでに起きた地震を振り返りながら、建築基準の変遷を紹介、阪神淡路大震災では<ピロティ建物>に対する設計法が強化されたことを確認した。
「特に被害が多かったのが、集合住宅の1階部分を柱だけの空間にしたピロティ建物でした。それ以降、ピロティ建物の設計はきちんと考えていきましょう、ということになりました」。このほかに渡邉氏は、被害の多かった事例<中間層崩壊><角地建物の崩壊>を挙げてそれぞれ説明、原因調査を行ったうえで、学校などを中心に、震災後に残った建物についてさまざまな方法によって耐震補強・耐震改修を実施、学校についてはほぼ補強が終わっているという。
現在はRC建物の設計施工技術も、制振技術・免震技術も向上、RC建物も進化している。さらにRC建物の弱点と言われてきた<重さ>について、逆に<重さ>が良いと言い切る。米国では竜巻に抵抗できる構造としてシェルターに使われている事例や、水害に対しても強い、高床式の校倉造の事例を紹介、「異常気象の影響を受け始めた日本においても、これからはRC建物が見直される時がきた」と、笑顔で語った。
そして最後に、これからの技術者に必要な要素として<技術者の倫理>について語り、倫理観が欠けていると、新しい技術を開発してもそれが活きないということを、米国スペースシャトルのチャレンジャー爆発事故の経緯などを示しながら解説した。
建築設計もコンクリートも、人の生命にかかわる技術。震災から25年のこの時期にふさわしい倫理や道徳について改めて考えさせてくれた。
講師の先生方は、お2人とも当時の阪神淡路大震災の復興工事に実際に関わられたということで、臨場感と説得力のあるお話に、参加者も引き込まれるように聞き入っていたのが印象的だ。
2つの特別講演に続いて、座談会が行われた。