KURSレポート
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2020.01.31
座談会のテーマは『25年を振り返り、未来に向けて』。コーディネーターの大谷恭弘氏(神戸大学大学院)の進行によりコンクリート、AI・IoT、建築構造、ロボット工学、PC橋建設などそれぞれの専門分野が紹介され、その後、各自の技術領域における最新の取り組みの発表などがあった。概要を以下に紹介する。
清水俊彦氏(神戸市立工業高等専門学校)は、真空吸着式ではないロボットハンドを開発。通常時は柔らかく、いろんな形状に沿って(張り付いて)固くなる(保持する)ことから、凹凸のある面などにも使えるため利用度が高まる。そんなロボットハンドを、社会インフラの保全に検査ロボットとしての利用することを提案。
野村泰稔氏(立命館大学)は、ディープラーニング(AIが多くのデータを見ることで、大量のデータからAI自身が自動的に特徴を抽出し、学習してくれる技術)を使った、ひび割れの近接目視点検診断に代わる技術、または事前に利用することで近接目視点検診断を支援する技術としての利用を提案した。
室田敬氏(三井住友建設株式会社)からは、人手不足や合理化、品質管理等の面から進んでいる道路のPC化に関する新技術だ。昨今の課題である、鉄筋等の腐食に対応する技術として、ネクスコ西日本と模索している、鉄筋をファイバーに、PC化した橋桁を引っ張るピアノ線をアラミド繊維に置き換える技術を紹介した。
兼光知巳氏(清水建設株式会社)は、所属会社の有志で考える<オーシャン・スパイラル>という深海構造物について説明。頂上に直径500mの球体、そこかららせん状に降りていく形状を考える過程で、<深海でロボットが扱えるコンクリート><光を通すコンクリート>など、いろんな発想が生まれる。新しい技術の素となる発想も重要であることを思い出させてくれた。
我々に関わりの深いコンクリートの製造運搬分野では、大阪広域生コンクリート協同組合の栗延正成氏による、下記の新技術が紹介された。
現在電話とFAXが主流の生コン関連の書類管理を、プラント側からは試験表などを、販売店側からは地図や現場条件などをクラウドサーバにアップロードし、それぞれ必要に応じてダウンロードする。来年4月スタート予定。
配車係が出荷指令を出した時点で、生コン車に搭載したタブレットに現場の地図が映し出され、積み込み後はその地図のナビゲートで現場へ行くことにより、誤納防止や安全運転につながる。現在、試験運用中。
現在、電話やFAXで行っている生コンの受発注を、スマホやパソコンを利用して手軽にスムーズに受発注することで、業務の省力化や誤納防止につなげる技術を開発中。
そのほか将来的には、コンベアを流れる骨材を高精度カメラで撮影して水分量などを計測し、AIを活用した生コンの一貫品質管理によって、現場試験を省略できような仕組みができないかを模索するなどのテーマが紹介された。
各分野から紹介、提案された技術や考え方は、コンクリートの明るい未来を描く絵具のように、色とりどりのアイデアに感じることが出来た。
左から大谷恭弘氏(神戸大学大学院)、清水俊彦氏(神戸市立工業高等専門学校)、野村泰稔氏(立命館大学)
左から栗延正成氏(大阪広域生コンクリート協同組合)、兼光知巳氏(清水建設株式会社)、室田敬氏(三井住友建設株式会社)
3つ目の特別講演は、行政の目線から見た関西の25年と今後について、井上智夫氏(国土交通省近畿地方整備局長)が語られた。
テーマは『関西の現状と今後の展望~コンクリートに期待して~』だ。
井上氏は、業界や私たちの暮らしに大きく影響を与えた要素として、25年前の震災被害と共に、10年前に当時の政権から発表されたスローガン<コンクリートから人へ>の影響が非常に大きいと語った。震災被害は技術者や関係者の努力でほぼ復興したが、その後のインフラ整備はスローガンの影響によって未だに道半ばの状態だという。
「これまで整備をしたところは便利になっている。でも遅れたり未整備の所は、未だに不便で危険なところがある。最近の災害などをみると明らかだと思います。今日、私は、関西の現状と展望を含め、これまでの状況から攻めに転じるために話したい」と、言葉に力を込めた。
まずは、全国の渋滞ランキング1位・2位ほかを占める不名誉な順位に甘んじている阪神高速道路神戸線も、この10年の遅れが影響している。しかしこれも新名神高速道路、京奈和道(一部を除く)などの開通をはじめ、大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線延伸部、大和北道路、さらにその周辺部へ整備の予定が拡大。これにより物流が円滑化し、企業誘致、インバウンド対応などによる経済効果、また働き方改革まで、私たちの暮らしに好影響を与えてくれるに違いない。
一方、安全・安心の確保への取り組みについても重要性を強調。近年増えている豪雨や台風などによる被害を防ぐため、天ケ瀬ダムに代表される琵琶湖・淀川水系のダムや防潮堤や水門、防潮扉、六甲山系の砂防堰堤などにより被害を抑えている現状を報告、ここでも10年の遅れの影響が拭えないものの、安全・安心向上のために整備や補強が進んでいることが理解できた。
そして関西の今後に関しては、まず大阪の中心部で都市公園や淀川左岸線の整備が進むうめきた二期工事、そして2025年大阪万博やIR施設の予定地である、夢洲へのアクセス網を強化するための道路車線拡幅や大阪メトロ中央線延伸などを中心とした整備、さらにリニア中央新幹線、北陸新幹線のほか関空、大阪からの鉄道網の整備などを前提とした、新大阪駅周辺地域の整備も検討されているという。
このようななかで、コンクリートに求められる役割について、「(業界の皆様には)これからの工事に対応できる、厳しく多様な環境・条件をクリアする高度な品質確保を目指して欲しい。そのために行政としては、技術者や学会との意見交換を大切にしながら、技術の発展を阻害しない環境整備をめざし、技術基準の改正やプレキャストの活用などに取り組んでいきます」。さらに現場で高い技術を発揮する職人を表彰し、優秀な職人を抱えている企業や工事を推奨したいとの思いから、<コンクリート構造物品質コンテスト>を実施、受賞企業は次回に優先受注できるような仕組みも進めているという。普段、陽の当たりにくい職人の士気を上げる取り組みとして、大いに期待したい。
最後は「建設業界を取り巻く環境は厳しいですが、<給与・休暇・希望>を業界の新しい3Kとすべく、皆様の技術をさらに高めていただくことを期待し、また<コンクリートから人へ>ではなく<コンクリートから未来を>というスローガンが出てくることを期待し、私自身も進めていきたい」と、講演を締めくくった。
井上智夫氏(国土交通省近畿地方整備局長)
プログラムのラストは、皆が楽しみにしていた落語だ。休憩のあと会場に戻ると、会場が本格的な寄席に変わっていた。ステージ奥には金屏風、手前に敷かれた真っ赤な毛氈(せん)の上には見台と呼ばれる衝立と机が置かれており、参加者の期待もふくらむ。そんななか、笑福亭純瓶氏による創作落語『コンクリート物語』がはじまった。
出囃子と共に現れた純瓶氏は、自身の芸名の由来をめぐる枕ネタや昔話をもとにしたネタなどで、参加者の心をつかみ、笑いで客席をあたためつつ本編へ。職を探している若者が、親戚の伯父さんに連れられて、コンクリート好きの居酒屋店主のところへ、仕事を紹介してもらいに行くという噺だ。コンクリート好きの居酒屋店主がつくる自慢料理のひとつ、コンニャクのしゃぶしゃぶを食べた若者に料理の名前をたずねられ、「この料理は<しゃぶコン>や!けどこれ、そのまま食べたら<生コン>やで」と言うところで会場はドッと爆笑!さすがプロの落語家だ。この後は<インフラ>や<ジャンカ>、<コンクリートから人へ>などの関係者にひびく言葉を織り込みながら噺は終盤へ。紹介してもらった就職が決まり、早々に結婚すると報告に来た若者に、店主が「さすがコンクリートがとりもつ縁だけに、身を固めるのが早いなぁ!」と、コンクリートの特性をうまく使った<落ち>で、笑いと喝采のうちにイベントを締めくくってくれた。
笑福亭純瓶氏(松竹芸能)
開会挨拶 | 永山勝氏(JCI近畿支部支部長) |
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特別講演1 「阪神淡路大震災から25年目を迎えて(土木構造物)」 |
幸左賢二氏 (九州工業大学名誉教授・阪神高速道路技術センター技術顧問) |
特別講演2 「阪神淡路大震災から25年目を迎えて(建築構造物)」 |
渡邉史夫氏 (京都大学名誉教授・竹中工務店技術顧問) |
座談会 「25年を振り返り、未来に向けて」 |
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特別講演3 「関西の現状と今後の展望~コンクリートに期待して~」 |
井上智夫氏(国土交通省近畿地方整備局長) |
創作落語 「コンクリート物語」 |
笑福亭純瓶氏(松竹芸能) |
閉会挨拶 | 岸本一蔵氏(JCI近畿支部副支部長) |
<司会進行>
鶴田浩章氏(JCI近畿支部支部幹事)