推しプラ
あなたの[イチ推しプラント]はどこですか?
あなたの[イチ推しプラント]はどこですか?
2024.02.09
生コンワーカーの目線で、近畿地域の<イチ推し生コンプラント(工場)>をご紹介する、新企画『推しプラ』。Vol.10は、広域協組・北神ブロックの<三田宇部コンクリート(株)>(以下、同社または同工場)だ。
これまで紹介してきた<推しプラ>は、特色のあるプラントが多かった。しかし多くのプラントは、これまで厳しい時代を乗り越えてこられて、まさに今から一歩ずつ環境を整えていこう!と頑張っておられる前向きのプラントが多いのではないだろうか。今回は、そんなプラントのひとつを紹介したい。
同社は六甲山の北、神戸市北区の最も北東で、三田市と神戸市との境界にある道場町に立地する。日本最古の温泉と言われる有馬温泉も近く、同社敷地出入り口の対面(東側)には国道176号線が走り、その向こう側を有馬川が流れている。ドライバーの方なら新名神高速道路、中国自動車道、山陽自動車道がつながる<神戸ジャンクション>のすぐ東側、新名神高速道路と中国自動車道に挟まれた場所と言えば、イメージしていただきやすいのではないだろうか。
北区はもともと農地や山林の多い土地だったが、高度経済成長の時代を経て、神戸市中心部の人口が増加。その住宅対策として、神戸市兵庫区の新開地から有馬温泉や三田市・小野市方面を走る神戸電鉄の沿線が開発され、ベッドタウン化が進んだ地域だ。
またインフラ整備の観点では、兵庫県下45万人の水道用水・工業用水を支えると共に、下流の洪水被害の軽減をめざした<一庫ダム>の建設。中国自動車道、山陽自動車道、新名神高速道路と、高速道路関連の整備が進むにつれて、日本の東西を結ぶ高速道路網に直結できる好立地のため、物流の要衝として発展。物流団地や産業団地などがあり、多くの企業が物流拠点として利用している。
同社もこれまで、インフラや大規模商業施設など、暮らしに関わる工事にも関わってこられたが、今は土木工事が中心だという。取締役工場長の桒村美弘氏によると「新名神が整備される頃は道路の仕事が多かったんですが、今は堰堤や河川の土木工事、あとは工場や倉庫などの建設工事が多いですね」と、語ってくれた。
同社は1980年に、現在の場所から少し離れた三木市吉川町で、北神戸コンクリート(株)の社名で創業。生コンと生コンの二次製品の製造販売をされていた。そして2007年に、もともと現在の敷地で営業をしてこられた(株)関西宇部三田工場より事業を譲り受けて、三田宇部コンクリート(株)を設立。しばらくは2工場体制でやってこられたが、2017年に広域協組に加盟。その後、構造改善事業により、2工場をこちらの1工場に集約されて現在に至る。「ずっと昔には、価格競争みたいなことはありましたけど、広域協組に入る前は、北神生コンクリート協同組合に入っていたので、比較的良かったんですが、やっぱり広域協組に入ってからは、本当に安定しました」と、代表取締役の谷川徹氏。
そして当地で忘れてはならないのが、冬季の寒さだ。北区は神戸市内でも冬季の気温が低く、氷点下になることもしばしば。同社では配管が凍結することもあるため、独自に様々な工夫をこらしておられる。「主にプラントの配管が凍結するので、熱線を巻いたり、タイマーを使って極端に温度が下がらないように、夜でもジェットヒーターや投光器をつけっ放しにしたりしています。あと、プラントを動かすコンプレッサーが凍結しないように注意しています。連休とか年末年始なんかは怖いですね。だから営業日の前日には出社して、動作確認をしますよ」と、桒村氏。とにかく出荷が止まらないように管理する。都市部のプラントにはない、隠れたご苦労があるようだ。
高速道路関連の整備や物流倉庫から地域の土木工事、住宅の基礎まで、同社は、日々粛々と生コンを供給することによって、これからも地域の暮らしから日本の物流までを、陰で支えつづける。
所在地 | 兵庫県神戸市北区道場町平田1089 |
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設立 | 昭和55年 |
代表取締役 | 谷川 徹 |
社員 | 9名(内2名はパートタイム) |
出荷量 | 約25,000㎥/年 |
ミキサー | 1基(3,000L) |
生コン車台数 | 自社保有6台 (10t車:3台・8t車:1台・4t車:2台) |
●代表取締役 谷川徹氏
●取締役工場長 桒(くわ)村美弘氏
●技術課 川嶋浩平 さん
どのプラントでも、地域に根ざして営業をしているからには、地域への貢献を考えるに違いない。しかしプラントが住宅街のなかにあったり、地元に有名なお祭りがあったりすると具体的な貢献ができるが、それも状況によって変わる。同社の場合は、住民との接点がほとんどないという、なかなか難しい状況だ。
「もちろんウチも地元の自治会には入っていて、寄付なんかもしていますが、ウチのプラントは北側・西側・南側が山林ですし、東側は有馬川で、住宅街からはポツンと離れているんで、地域と一緒に何かやるということ自体がないんですよ。昔は、地元の人が勤めていたこともあったんですが、今はおりませんので、住民の方の声も届きません」と、谷川氏。以前は近隣自治体の<三田まつり>というイベントにも協賛してこられたが、コロナ禍で休止となってからまだ声がかからない状態だ。
とは言え、ご近所の迷惑にならないように、音の大きな重機の使用や、ミキサー内のはつり作業は平日にするなど、騒音にも気を配っておられる。もちろん現在も苦情はない。
また、三田の建設業協会からの要請に応えて、工場見学を行ったり、ゼネコンの新入社員研修の一環として、北神ブロック内の各プラントで、持ち回り制での見学を受け入れたりと、自分たちでできることについては、しっかりと対応しておられるのだ。
周囲を山林や河川に囲まれた立地での、地域住民への貢献は確かに厳しいが、自治会にも入っておられるということで、今後、同社らしいかたちの地域貢献が見えてくるのではないだろうか。これからも前向きの姿勢で、頑張っていただきたい。
安全に関しても、同社は基本的な対策を、粛々と忠実に実施しておられる。
ヘルメットや安全靴、安全帯、保護メガネを支給し着用するなど、基本的な対策は徹底しているほか、全社で集まってやるというかたちではないが、個人がそれぞれに危険と思われる場所や工程を洗い出して、各人がその危険箇所を特に注意することによって事故を未然に防ぐ。要するに、個人版の<KY(危険予知)>のような活動を実施しておられる。作業にあたっては、各人が危険予知の意識を持つことは非常に重要なことだ。
そして谷川氏は、一見、安全とはつながらない<整理・整頓・清掃>を社員一人ひとりが心がけていることも、安全につながるとの持論をお持ちだ。
「今の設備は新しくはないんですね。でもウチは、設備をきれいにキープするように、普段からメンテナンスや掃除を励行して、設備機器を大事に使っています。整理・整頓・清掃を励行することで、作業がスムーズにでき、設備や機器の不具合も分かるうえ、ムダなものを排除し、転倒やケガの防止にもつながるんです」と、谷川氏。なるほど、<整理・整頓・清掃>も立派な安全対策だ。
さらにもうひとつの対策が、小回りの利く対応。これは始めたばかりの取り組みだ。
同社では、契約物件以外のスポット案件も、ほぼすべてが広域協組からの仕事となっている。スポットは全体の2割〜3割で、そのほとんどが住宅の基礎工事だ。北区は倉庫や工場なども多いが、冒頭でも述べたように、もともと神戸市内で働く人たちのベッドタウンとして発展した歴史があるため、住宅も多い。そのため同社でも4トン車も保有しているが、やはり侵入路が狭いため、小さな事故やトラブルになることも多い。そこでブロック各社で相談して、今後より小さい㎥(りゅうべい)車を各社で確保することに決めたという。もちろん傭車もあるが、当日対応が必要な場合に備えるという意図だ。
これからの取り組みだが、ここにも社員や地域社会、関係者の安全を守る、同社の姿勢がうかがわれる。
「仕事に対するこだわりは、基本、<お客様第一>の姿勢ですね。我々は依頼があっての仕事ですので、土曜日でも、出荷があればやりますし、まぁ、ほとんどありませんが日曜・祝日でも出荷があれば、何とかやらせていただきます」と、谷川氏。まさに<顧客満足>の姿勢だ。ただし、社員の休日とのバランスは考えなければならない。次項で詳しく述べるが、そこで一工夫され、隔週週休二日制を導入しておられる。
そして、さらなるこだわりがサービス対応だ。
「自分たちが買い物に行ったときに、店員に横柄な対応をされるとか、店側の対応次第で買いたい気持ちも変わりますよね、それと同じで、生コンも買う側の気持ちになって考えることです」と、谷川氏。特に生コン車のドライバーは、商品である生コンをお客様にお届けする最終ランナーだ。マナーやルールを守るのはもちろん、身だしなみにも気を付けるよう、徹底しておられる。
同社のこだわりは、<顧客満足>につながる行動と言えるのではないだろうか。
同社では、福利厚生や働きやすさという点についても、これまで紹介してきた<推しプラ>と比べると、注目されるような内容はない。しかし福利厚生や働きやすさとは、本来、他社と比較するものではないし、その会社に合ったものでなければ意味がないのではないだろうか。
同社の福利厚生や働きやすさは、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険などへの加入はもちろんのこと、社員が安心して、快適に働けるように休憩室の完備やトイレの男女独立など、一般的な内容ではあるが、きちん整備されている。
資格取得なども、仕事に必要なものは会社が全面的に支援してくれているし、取得すれば当然手当も付く。
前項で少し述べたように、休日については、完全週休二日制とはいかないが、北神ブロック4社を2つに分けて、隔週交代で土曜日を休むように工夫しておられる。また、有給休暇についても気兼ねなく取得できるよう、気を使っておられるのだ。
「先ほど申し上げましたが、会社としては<お客様第一>という姿勢でやっておりますので、社員の皆さんに無理をお願いする場合もあります。なので、有給休暇はできるだけちゃんと取ってもらえるよう、こちらから声をかけています」と、谷川氏。
同社の場合、特に目立った制度やサービスはないものの、同社に合った福利厚生や働きやすさで、社員の満足は得られているようだ。
取材の最後に、同社のビジョンについて谷川氏に語っていただいた。
「技術継承ですね。生コンの世界でも、仕事の基本的な部分は、数値が重要な役割を果たしているわけですが、その先には数値では言い表せない、勘とか経験とかが重要な仕事でもありますので、そのあたりの技術を、次世代にうまく継承していきたいと思っています。社員の高齢化も進んでいますので、今後、バランスのとれた年齢構成にして、資格を積極的に取得して、スムーズに技術を引き継げるように努力しています。具体的には、新人1人にベテランを1人付けて、伝えていくしかないんですね。ですから、ウチなら未経験の新人さんも、安心して飛び込んできていただけますよ(笑)」。
まさに今、技術継承を行っているという谷川氏。技術継承が実現できれば、事業継承もうまくいくはず。千里の道も一歩からだ。同社の技術継承も一歩ずつ確実に実現していってほしい。
『良質の生コンを届けることに対するモチベーションが凄く高い』
「以前、建築関係の仕事をしていたんで、建築関係者の友人が多く、生コンの仕事について話しを聞く機会があったんです。それで生コンの仕事に興味を持ちました。で、たまたま求人を見ていたら三田宇部コンクリートの求人があったので、応募したという流れです」と、非常にハキハキとお話しいただいたのは、現在、同社の試験室でお仕事をしておられる、川嶋浩平さんだ。
そのような経緯で、この業界に飛び込んでこられた川嶋さんは、実際に同社に転職してみて、とても安心されたという。
「試験のことは知っていましたが、実際に現場に行って試験をする経験はなかったので、不安しかありませんでした。でも先輩方に丁寧に教えていただいて、何とかやってこれました」と、川嶋さん。
現在、入社1年目で、仕事を覚えながら資格取得の研修に行っている川嶋さんだが、同社のコミュニケーションの良さに驚く。
「職場の先輩も工場長も、聞いたらその場で快く答えてくれるので、僕も、分からなかったらすぐ聞くようにしています。社内の人の距離感が近いので、先輩も社長もお話しする機会が多いですね」と、微笑む。
そして、その川嶋さんが凄い!とうなるのが、先輩方の仕事に対する姿勢だ。
「品質の良い生コンを、お客様に届けることに対するモチベーションが凄く高い。品質って会社自体の存続を左右するぐらい重要だと思うので、僕も皆さんから刺激を受けています」。普段はとてもフランクだが、品質や仕事については凄く意識が高く、ビシッとしているというイメージだと、熱く語る。
そんな川嶋さんは、プライベートでは、野球チームに入っておられるアスリートだ。
「学生時代ずっと野球をしてきました。この会社では、日曜日はきちんと休めて、野球ができるのでうれしいですね。それに前職では、平日も残業が多くて、家に帰ってから何かしようという気になれなかったんですが、今は、ほぼ5時に終われるので、帰ってゆったりした時間も取れます。それも魅力のひとつですね」。平日のアフターファイブも、休日も、自分の時間を取れて充実されているようだ。
「この会社に入らせていただいて、仕事のことは先輩や上司に丁寧に優しく教えていただいて、資格も積極的に挑戦させていただいているんで、僕としては凄く有り難いですね。本当にのびのびやらせてもらっているので、僕としては、ここに入社できて良かったなと思っています」。アスリートらしく、爽やかに語ってくれた。