推しプラ
あなたの[イチ推しプラント]はどこですか?
あなたの[イチ推しプラント]はどこですか?
2024.11.08
生コンワーカーの目線で、近畿地域の<イチ推し生コンプラント(工場)>をご紹介する、新企画『推しプラ』。Vol.16は、広域協組・神戸ブロックの< (株)泰慶 本社工場>(以下、同社)だ。
生コンプラントが沢山あるように、その経営スタイルも個社個社で違う。我々の本分である生コンの製造販売を、全社挙げて頑張るのもパワフルで素晴らしい。グループの連携でこなすのも魅力的。しかし一方で、市場環境や会社の成り立ち、得意分野などに合わせて、幾つもの切り口を持つというのも新鮮だ。ビジネスの方法はひとつではない。
そんな新しいスタイルで会社をけん引する、若き経営者たちにお話をうかがった。
広域協組神戸ブロックで2軒目の推しプラとなるのが、兵庫県神戸市西区にある<(株)泰慶(以下、同社)>だ。西区は、神戸市のなかでもいちばん新しい行政区だ。1982年8月に神戸市垂水区から分かれた7つの町がまとまって誕生。西区と言ってもなかなかイメージが湧かないかもしれないが、神戸市の最も西端に位置する。ざっくり言うと、東は神戸市北区と同須磨区、西は加古郡稲美町と明石市、南は明石市と神戸市垂水区、北は三木市に接している。
同社は、そんな西区の南部を横断する<第二神明道路>玉津インターチェンジのすぐ東、第二神明道路の側道と、区域を縦断する<兵庫県道52号小部明石線>が交差するほぼ角地のとても便利な場所に立地している。
神戸市と言えば神戸港で知られるが、明治に開港した兵庫港をルーツとする神戸港は、国内や海外から人と共に様々なモノや文化が入り、また海上輸送の拠点として海運業、造船業、貿易業などが発展。神戸市は港と共に発展してきたことで知られている。
同社が立地する西区玉津町は神戸港からも離れてはいるが、やはり土地柄というか、当地の人には根っからのハイカラ精神を持ち合わせているようだ。取材を進めるにつれ、さすが神戸!と感心することが多く、新しいものや考え方を抵抗なく取り入れる素地は、現代の神戸人にも備わっているようだ。
同社はもともと、中堅ゼネコンに勤務しておられた現社長のお父様が、1973年に独立されて個人事業として外柵工事業者<石原外柵工事>を創業。その後、土木工事のお手伝いをされるようになり、1975年に社名を<石原建設>に変更。1979年頃から、当地周辺のベッドタウン化による生コン需要の高まりを受けて、本格的に生コン事業をはじめられた。「当時は高度経済成長期で生コン工場が忙しかったため、なかなか予約が取れず、せっかく取れても、雨が降ったら次の予約は2週間後など、どこの現場も困っていたようです。もちろんウチも同様で、苦し紛れに他社を真似て自分たちで生コンをつくりはじめたら『ウチにもつくってくれ!』と言う声が増えてきて、それを受けて本格的に生コン事業をはじめたようです」と、にこやかに話してくれたのは、代表取締役社長の石原成起氏だ。その後、お父様が県会議員になられたことから、一旦お母様が代表取締役を務められ、同社に勤めておられたご長男の成起氏が2021年に代表取締役に就任された。
かつては同社も、協組に入っていなかったため、御多分に洩れず価格競争ではご苦労をされたが、西神中央や西神南の各ニュータウン、学研都市などの住宅需要や、そこに隣接する工業地域などの需要、第二神明道路の工事関連などいわゆる地元のスポット案件を、創業社長の真摯な営業姿勢で受注、地域の工務店や販売店などから支持を得てこられた。広域協組加盟後は、大手ゼネコンなどの物件を中心としながらも、地域のお客様も守り、新たな商売にも挑戦するという独自のスタイルを貫いておられる。
神戸市のベッドタウンとして、またアクセスの良さを活かした物流倉庫や工業団地進出企業の施設整備など、これからも発展を続ける西区を中心としたこのエリアで、同社の若き経営者たちは、まだ誰も見たことのない生コンプラントの新たな領域を模索しているように見える。
所在地 | 兵庫県神戸市西区玉津町二ツ屋99-5 |
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操業 | 昭和50年5月 (石原建設にて生コン事業操業開始) |
代表取締役 | 石原 成起 |
社員 | 21名 (ドライバー:11名、営業:1名、事務:2名、出荷・製造・試験:7名) |
出荷量 | 約40,000㎥/年(23年実績) |
ミキサー | 1基(2,300L) |
生コン車台数 | 自社保有16台 (10t車:8台・8t車:3台・4t車:5台) |
●代表取締役 石原成起氏
●専務取締役 石原功士氏
●試験室 相川和矢さん
同社の周辺には住宅がない。しかしそんななかでも、地域社会への感謝の気持ちは忘れてはいない。古くは阪神淡路大震災の際に、生コン車を使ってプラントで使用する井戸水を生活用水として提供したり、工場を開放するなど、昔から地域と共に歩んで来られた。現在も同社の敷地内や周辺の溝さらいを、出荷の少ない日など年に何回かに分けて行ったり、地域の神社の祭礼時には寄付を行うなどの地域社会とのつながりを大切にしている。それは当時、アウト(協組未加盟)社だった同社は、大手ゼネコンの仕事が入らず、操業当時から地域の生コン需要に助けられてきたからだという。
そんな同社では、上記のような地域貢献の延長として、独自の地域貢献に取り組んでおられる。それが一般からの直接受注だ。
同社では自社ホームページに、<ご注文ナビ>という直接受注用の窓口を設置。道路に面した電光掲示板広告にも告知している。「最近、DIYが流行っているでしょう?で、ウチの看板とかを見て生コン屋だというのを知って、例えば自宅駐車場の土間を自分で打ちたいとか、田んぼの畦道の補修をしたいとか、生コンは普通のクルマで取りに行けますか?とか(笑)、直接、電話をかけて来られるんですよ。一般の人は何も分かりませんから「何がやりたいんですか?」って聞いてあげるんです。で、料金も含めて分かる範囲、できる範囲で相談に乗って差し上げる。で、近くで時間のある時なら、見に行ってあげることもあります(笑)」と、穏やかに微笑む成起氏。同社では、アウト社の時代から、<透水性コンクリート>という水をとおすコンクリートの販売に注力しておられ、その施工事例を見た一般の方が、自分で打ちたい!ということから話が広がり、施工も含めて受注したこともあるという。たとえ小規模でも、きっかけが地域貢献でも、透水性コンクリートの普及につながるのはうれしいことだ。
専務取締役の石原功士氏からは「実は生コンって直で買えると思っていない人も居られるんです。なので、ホームページに書いておくと、離れた地域から、この辺りの販売店や生コンプラントに伝手のない業者さんでも問い合わせて来られる。そういう需要も一定数あるんです」。なるほど、大きな市場ではないにしても、地域貢献をしながらビジネス面でも多少のメリットがある。まさに一挙両得ということだ。
もちろん生コンの出荷量は、広域協組と共有している。
同社の先進的な取り組みはいろいろあるが、なかでも珍しいのが米国コマンドアルコン社製<スマート・アジテーター®️(以下、スマアジ)>の導入だ。
スマアジは、生コン車のドラム内部に取り付けたセンサーによって、積載した生コンのスランプ値やコンクリート温度などをリアルタイムで計測。そのデータを試験室のパソコンや現場監督のタブレット、ドライバーのスマホなどから、常時確認することができるシステムで、生コンの状態だけでなく、GPSによって車両の位置もリアルタイムに把握できるというスグレモノだ。配車はもちろん、試験室を通じて安定品質の役にも立つうえ、廃棄される生コンを減らし、最終的にはお客様の信頼を高めることにもつながる。
「これまで生コン車に積んだ生コンのスランプ値は、工場で積んだら現場試験をするまで、スランプ値がどのように落ちるのか誰も分からなかったんです。例えば現場試験のときに『この生コン、めちゃ硬いで!?』って言われても、そのスランプが輸送中に急激に落ちたのか、試験準備、待機中にスランプロスしたのかは分からない。輸送中からスランプロスしていたら、練りはじめをもう少し柔らかくする必要があるとか、そういうことがオンタイムで分かる」と、功士氏。JISの規定通りではないので、測定業務の代わりにはならないが、JISの受け入れ検査で必要なデータ全てがこのセンサーで分かるため、目安になるような数字は充分取れるという。このシステムを導入しているのは全国で7社ほど。関西では同社だけだ。同社ではスマアジを10t車5台に設置しており、現在はその中の1台に、空気量が測定できるスマアジの最新型を取り付け、国内における実証試験にも参加しておられる。
このような先進的な技術は、多くの場合、すぐ採用!となるケースが少ないと思うが、まず導入してみるところが同社の良いところだ。最初に導入するほうが、経験値やノウハウも蓄積されるし最初に結果を出せる。同社ではこのスマアジの活動を、広域協組加盟前後から取り組みはじめておられる。
品質に対する同社のこだわりは、スマアジのような最新技術だけではない。身近なところでいうと、同社の生コン車は、もともとコーポレートカラーのグリーンだったが、現在はドラムの塗装色を白色に変更している。酷暑時の納品の際、緑色だとドラム自体の鉄板が焼けて表面温度が数度上がる。それに応じて当然、中の生コンの温度も変わるからだ。最新の技術だけでなく、こういう小さな工夫も、同社の生コン品質に大きな影響を与えているのだ。
近未来の生コンプラント像が、同社には見えているに違いない。<品質第一>を謳う同社らしい取り組みだ。
同社の社名である<泰慶(たいけい)>は、仏教に傾倒してこられた創業社長が、<お客様や社員が泰(やす)らぐ、慶(よろこ)び多い会社>にしたいとの思いから付けられたという。お客様はもちろん、社員からしても理想的な会社だ。社会保険や年金など、企業として基本的な福利厚生は完備。有給休暇も付与される。コンクリート関連の資格試験は初回費用が会社持ちで、資格取得後は手当が付くなど、働き手にとってはうれしい待遇だ。
関心の高い休日については、地域のお客様のスポット案件もあるため、同社は基本的に土曜営業をしており完全週休二日制とは言えない。しかし土曜日は出荷量も少ないことから、社員と相談のうえ出荷量によって出勤する人数を決め、出社した人には平日に代休を取ることができるよう配慮されているという(未消化分は金額に換算される)。
また、<いい仕事は風通しの良い社内から>という考え方のもと、社内コミュニケーションを深めるために、年に何度か社内でBBQを開催しておられる(最近の酷暑で、今後は焼肉店などでの食事会に切り替える予定)。 そして実はこれ以外にも、社員の身体を気遣う同社独自のひと工夫がある。その秘密は生コン車運転席の天井の塗装だ。
先の項目で、ドラムの塗装変更について述べたが、同社では併せて運転席の天井も白色に塗装している。もちろん運転席にはエアコンが装備されているが、トラックは窓も大きいため、夏場は強い陽射しにさらされ、運転席内の温度が下がりにくいからだ。毎年、夏場の最高気温が更新される昨今、現場での熱中症対策が課題となっているが、同社ではそれを自分ごとと考え、自社のできる範囲で対策を行っているのだ。
「私は<会社があるからみんなが在るし、みんなが在るから会社が成り立っている>、つまり立場的には社長ですが、気持ちは社員とフィフティ・フィフティだと思っています。だからお互いが助け合わないと仕事にならない。だから経営者も労働者も、皆で努力することをしないといけない。どっちが偉そうにしてもダメ。それが根底にないとあかんでしょう?」。経営者と労働者は車の両輪。お父様の代から会社を見て来られた、成起氏の本音だ。
「昔からこの辺りには、残土や残コンを最終処分するところがほとんどなかった。それにこの部分はお金を生み出さないどころか費用がかかる。だからコストをカットする意味で、従来からの個社規格の㎥ブロックをつくって売っていたんです。でも関西特有の悪い癖で『もともとが残コンなら、タダでええやん?』という声が出てくるんです」と、成起氏。それを打開する手段のひとつが<BETON BLOCK(ベトンブロック)>だった。
ベトンブロックとは、『推しプラVol.9 (株)ヒメコン』の記事内でも紹介しているが、天面と地面にレゴブロックのような凹凸を付けたコンクリートブロックだ。オランダ製の専用型枠を使って独自の方法でつくるが、従来の立米ブロックと違い、品質・形状・質量が一定なうえ、凹凸部分がガッチリはまるので積んでもズレにくい、運搬しやすいなどメリットが多い。
「私が、値切りの悪い流れから脱却したいと思っていたところへ、ちょうど弟(功士氏)が入社してきて、どうすれば安全性や付加価値の高い商品ができるのかを研究しはじめた。それが<リサイクル砕石>や<ベトンブロック>という商品を扱うことになった経緯です」と、成起氏。これなら環境に良いし商売にもなる。
さらに同社の凄さは、自社でこれら二次製品の製造販売をはじめたことだけではない。ベトンブロックの場合、注文数が100個、200個ということが多い。ところが二次製品工場でもない同社が、それを1社で賄うのは難しい。そこで同社は、自社でも製造販売をしながら、販売代理店として、導入を希望するプラントにベトンブロック製造に必要な設備・機器の提供やノウハウを提供。同時にそのプラントと協定を結び、大きな受注の際には不足分を出し合えるようにネットワークを構築している。これなら、小規模なプラントでも安心して導入ができるのではないだろうか。
現在、ベトンブロックの日本における代理店は、同社のグループ企業である(株)泰徳(代表取締役は石原功士氏)が行っている。
同社が取り扱うもうひとつの環境配慮型の商品が、<リサイクル砕石>だ。これも、費用をかけずに残コンを何とかして活用したい、という思いから誕生した。
「残コンをできるだけ減らすには、そのまま型枠に入れて立米ブロックにするのが手っ取り早いんですけど、型枠が足りないとか、残コンの品質が良くないなどの理由でブロックにできないものもある。それを何とかしたいということではじめたのが、(固まる前の)コンクリートから強制的に水分を排除してつくる<リサイクル砕石>なんです」と、功士氏。同社のリサイクル砕石は、自社のコンクリートを砕石状にしただけなので、中間処理業者から買うものと違い、不純物が少なく好評とのことだ。
このほかにも、各種<透水性コンクリート>、業者への取り次ぎになるが、外壁などの表面に鬆(す)が入ったコンクリートをきれいに補修する<生コン屋さんとコンクリート補修>などのサービスがある。
幅広い切り口で仕事をすることに対して、功士氏は「生コンで、我々が商売をさせていただいているお客様のお役に立てるようなもの、ということを考えてやっています」と言うと、成起氏も「まあ…協組加盟前から、自社として他社と違うこと、生コンにつながることをと考えてやってきたことの流れが、今につながって来ているという感じですね」と続ける。必死に考え、いろいろチャレンジして来られたに違いない。攻めのビジネスは環境にもやさしい。
今後のビジョンとして、成起氏が最重要課題として考えるテーマは、やはり人材の課題だ。まずは若手社員の採用。そしてベテラン社員の技術継承だという。
「まずいちばん若い世代の求人については、高卒の新卒採用を2020年から2年に1回、複数人入れようということでやっています。ただ初回は2人採用できたんですが、残念ながらその後はうまくいっていません…。あとは世代間ギャップが大きいので、中間層的な世代も少し来てほしいですね」と、功士氏。
同社も求人媒体や縁故など、いろんな手立てを講じているが、やはりすぐには採用につながらない。そこで同社が導入した方法のひとつが<電光掲示板>による人材募集だ。関西のプラントでも、これを設置しているのは同社だけだろう。
「この業界では縁故採用が多いんですが、それも長短両面がある。ある程度の人物像が分かる、定着しやすいなどのメリットがあるが、その反面、どうしても誰かを頼ってしまうというデメリットもある。そうではなくて『こんな仕事をやってみたい!』と、前向きで意欲的な人に飛び込んで来てほしい」とのいう思いからだ。「じゃあ、他でやってないようなことをやってみようか!ということで、兵庫県道52号小部明石線添いのプラント出入口に、設置したんです。で、生コンの仕事内容を伝えるために、仕事の映像を入れたり、ベトンブロックや会社の紹介、商品の紹介なんかを入れつつ、求人募集をアピールしています」と、成起氏。
とにかく実験的な試みだが、交通量の多い幹線道路沿いのため、いい結果が出ることを期待する。
※(株)泰慶のホームページ(アドレス…https://www.taikei-rmc.co.jp/ )。
『先輩の皆さん方は、とても良い人ばかりですよ!』
相川さんは4年前に、明石市内の高校を卒業し、新卒として同社に入社された。現在、試験室で日々の仕事に、そしてコンクリート技士の資格取得をめざして頑張っておられる。
もともと物理や科学がお好きだったという相川さん。学校に来ていた同社の求人情報に興味を持ち、見学に来られたという。そこで「試験室の仕事を見た時に、面白そう!楽しそうやなぁ…」と感じたのが決め手となった。
そんな物理や科学に興味を持つ相川さんも、さすがにコンクリートのことは素人だったため、最初は先輩方から仕事の技術を教わる日々で、大変だったが楽しかったという。「先輩は、僕らよりも年上の方ばかりですけど、聞きにくいことはまったくなくて、分からないことは丁寧に教えてくれました」と、笑顔で語ってくれた。20代ということで、まだまだお若く見えるが、すでに試験室の仕事全般に携わっておられるとのこと。頼もしい限りだ。
自転車がお好きで、ご実家のある明石市から自転車通勤をされているという相川さん。休日の過ごし方をうかがうと「やっぱり自転車のメンテナンスですかねぇ…」と、はにかみながら頭をかく。そしてもうひとつのお楽しみが、甥っ子さん姪っ子さんと一緒に過ごすひとときだという。ご実家は大家族のご家庭で、毎週休日には独立されたお兄様が戻ってこられるため、子供たちと過ごすのが楽しみだとおっしゃる。現在、会社主催のBBQなどへの参加は控えておられる相川さん、参加しづらい雰囲気があるのかとうかがえば、そうではなかった。「いえいえ、実はウチは大家族で、ウイルスとかを持ち込むと大変なんで、参加を見合わせているだけなんです。先輩の皆さん方は、とても良い人ばかりですよ!」と、にこやかに微笑む。
ご家族を大事にされる心やさしい相川さん、技士の資格を取得し、先輩の技術を継承して、スタッフの皆さんと共にさらに上をめざしてほしい。