KURSレポート
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2018.07.31
大阪北部地震では、多くの方々が被害にあわれた一方で、震源地から多少離れていたり、それだけではなく、普段からの訓練や教育、震災発生後の素早い判断と行動、建物の構造や使用素材などによって、大きな被害につながらなかったケースもあるそうです。関西大学第一中学校の蔭地陽介教頭先生にお話しをお伺いしました。
地震発生から9日目にあたる6月28日、関西大学第一中学校(大阪府吹田市)教頭の、蔭地陽介氏にお話をうかがった。
同校は名門関西大学の併設校だ。中学校・高等学校あわせて約1900名の生徒が勉強や学校生活を謳歌している。今回の地震で同校は、全くと言っていいほど被害がなかったという。それは単に震源から少し離れているからでも、偶然や運だけでもなかった。
大阪府吹田市山手町にある同校の門をくぐって、まず不思議に思ったのが、その静寂性だ。地震の後の混乱や倒壊などの痕跡がまったく見えない。
はじめに当日の動きについて、蔭地氏にうかがった。
「地震発生時、私は学校におりました。5~10秒程だったと思いますが、その瞬間は私も机をつかんでいました。揺れがおさまった後は、既に登校している生徒をどう避難させるかということを第一に考えました。そこでまず生徒を机の下に入るように指示し、その間に教員が廊下や階段の安全を確認して、その後、全員をグラウンドに避難させました」。地震の規模や被害の状況にあわせて、避難場所を臨機応変に変えることは、生徒の安全を守るうえで重要なことだ。先生方の冷静な対応で登校している生徒達は、落下物等の心配のないグラウンドまで誘導された。
蔭地氏に案内していただき、校内の施設を見せていただいた。まずは生徒が一時避難したグラウンドだ。広いグラウンドには、人工芝が敷き詰められているため、そこに居るだけでほっとする。グラウンドの一方には3年生の入る校舎が建っている学校生活、ここでは、避難位置にも工夫が見られた。
「万が一、余震で校舎が崩れたりすると危険なので、生徒たちは校舎と反対側に集めました」と蔭地氏。確かにちょっとした工夫だ。しかし先生方の機転が生徒の安全を確保した。
その後、生徒達は、体育館に誘導された。
「午前9時30分頃までグラウンドに避難していたんですが、雨の心配があったので、次に体育館に移動しました」。この対応も、生徒の気持ちに配慮したものと言える。地震の後、不安な気持ちで過ごし、過呼吸やPTSDなどの症状の出た生徒もいるなか、たかが雨と言えど、さらに不安な気持ちになりかねないからだ。そこで体育館を見せていただいた。約20年前に建てられたという体育館は鉄骨造2階建てのしっかりした建物だ。まずは2階へ案内された。
よほど良い素材を使ってきちんと作られているのか、外壁のコンクリートにはまったくヒビが入っていない。約20年前に建てられたというから、阪神大震災の教訓を生かして、しっかりとつくられているに違いない。
「ここへ高校生を、そして1階に中学生を避難させました」と、案内された体育館2階の内部構造を見て驚いた。金属製の大きなトラスがむき出しになっている。これだけしっかりした鉄骨が使われている体育館は珍しい。見ているだけで安心感につつまれる。冷暖房も完備しているので、グラウンドよりも快適に過ごせる。
続いて1階。ここは武道や卓球、トレーニング等に使われており、トイレやシャワーも完備されている。しかしそれよりもこのフロアの素晴らしさは、多くの鉄骨入りコンクリート柱に支えられていることだ。非常に安心感がある。
同校では約50年前に建てられた村野藤吾設計による扇形校舎も全く被害が無かった。今回のような災害に直面した時、人は正しくつくられた構造物の素晴らしさに気づく。
今回の災害で最も時間を要したのが、登校していない生徒の安否確認だ。地震の発生が通学時間帯だったため、電車の中に閉じ込められた生徒もいた。しかもスマホの携帯は禁止されているため、家にも学校にも連絡ができないからだ。「たまたま電車に乗っていた教員が、同じ車両でウチの生徒達を見つけて、その教員からの連絡で確認がとれたケースもありましたが、なかには下新庄の駅で7時間近く待っていた生徒達もいたんです。やはり中学生ぐらいの年齢では、今回のように通学時に災害に遭遇したとき、学校へ行くのか家へ帰るか、という判断をするのは難しいと思います」。そう判断した学校側では、なんと、本来は禁止にしていたスマホの携帯を同校では急遽、許可することにした。「18日(月)の地震を受けて、すぐに父兄の皆さんにプリントを渡して、22日(金)にはスマホ等の学校への持ち込みを許可しました」。素早い対応だ。もちろん電源を入れるのは緊急時のみという約束付きはあるが、これで学校側も父兄としても安心することができる。
安否確認の他に学校が重視したのが、避難中の生徒全員を無事にご父兄に引き渡すことだ。そこで学校側は、名簿を使って生徒の動きを管理した。
「実は以前から、防災マニュアル作成委員会を立ち上げていて、生徒の名簿を作成して、非常時にはすぐに教員が使えるように管理していたんです。そこで今回は、入口に近い校舎の前に中学1・2・3年、高校1・2・3年と机を6脚並べ、その名簿を使って、ご父兄が何時に迎えに来られて、何時に下校したかのチェックを、ここで一元管理しました」。こんな時は、情報の混乱が新たな災害を生みかねない。しかし同校では、生徒の下校時間をここで一元管理していため、混乱は一切なかった。
また校内の順路を利用して、父兄の往路と復路を分離。一方通行にして混乱を防ぐ工夫も行っていたのだ。
お仕事をされている父兄もおられるため、下校は夜までかかったが、校内で夜を過ごす生徒はなく、21時30分には生徒全員の下校が完了したという。
とにかく蔭地氏の言葉の端々に感じるのが、行き届いた危機管理だ。同校は、普段から授業の中で防災教育を行い、4月には防災訓練も行っていた。
「生徒自身、阪神淡路大震災を経験したことがないし、どこかで『自分達は、大丈夫だろう』と考えていると思います。でも意識することが重要なので、折にふれて教えるようにしています」と、普段からの防災教育の重要性を強調する。また震源から少し離れていたこともあるが、校内のロッカーなどの倒壊がなかったのは、すべてのロッカーをL字金具などで壁に留め、横揺れに備えてロッカー同士もビスで留めていたという。普段からの備えが、功を奏したかたちだ。
素早く的確な判断や普段の準備によって、大きな被害が出なかった同校だが、蔭地氏は、今回の地震から学んだことがあるという。
「発生時刻で対応が変わるということです。今回は通学時間帯でしたが、もし違う時間に発生すれば、生徒を宿泊させなければならない場合もあるかもしれない。また近隣住民の方が避難して来られたら…、そういうことを考えると、時間帯にあわせた対策のシミュレーションがもっと必要だと思います」。危機に対する、この意識の高さはさすがだ。
確かに、普段からの防災教育や防災訓練が重要なことには違いないが、それだけでは画一的になりはしないだろうか。いろんな場面を想定したシミュレーションをしておけば、より安心できるに違いない。
被害を最小限に抑えることができた蔭地氏は、あくまでも謙虚だ。「私達の学校には“正義を重んじ、誠実を貫く”という教育方針があるんですが、あの日の私たちが誠実を貫かなければならなかったのは、子供たちを無事に家に帰すことでした。それができて良かったです」と、やさしく微笑む。
最後に建築やコンクリート業界に求めることをうかがうと「壊れないに越したことはないのですが、それだけではなく、過ごしやすい、そこにいると心地よい、そんな空間で学べたら、子供たちも我々も、良い学校生活が送れると思います」。この先生方なら、子供たちを安心して任せることができる。これからも、冷静な判断と危機管理を大切にしながら、生徒たちの学生生活を支えていってほしい。
「秀麗館」は、関西大学第一高等学校・関西大学第一中学校に、体育館と講堂の機能を兼ね備えた施設として、平成11年2月に竣工しました。
この施設は、圧縮に強いコンクリートと、引っ張り力に強い鉄筋を組み合わせた鉄筋コンクリート造、また剛性の高い(重量)鉄骨を使った鉄骨造を組み合わせることにより、柔軟かつ堅牢な、耐震性の高い構造を実現。さらに質の高いコンクリートを使うことで、これらの構造を、より信頼性の高い構造物に仕上げています。
今回の地震においても、信頼性の高い避難所として、生徒達を守りました。
名称 | 関西大学第一高等学校・関西大学第一中学校「秀麗館」 | |
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所在地 | 大阪府吹田市山手町3丁目3番24号 | |
設計施工 | 株式会社 竹中工務店 | |
工期 |
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構造 | 鉄骨造 鉄筋コンクリート造(鉄骨鉄筋コンクリート 鉄骨コンクリート造)地上2階 地下2階 | |
建築面積 | 2,637.05 m2 | |
延面積 | 4,416.03 m2 | |
床面積 |
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外装 | 外壁 | 磁器質タイル貼、コンクリー卜化粧打放し、空胴プレストレストコンクリートパネル |
屋根 | 溶融亜鉛メッキ鋼板丸ハゼ折板 | |
開口部 | アルミサッシ:アルマイトクリア塗装、スチールサッシ:合成樹脂調合ペイント塗装 | |
内装 | アリーナ |
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ホール・ロビー |
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