KURSコラム
一線で働くプロが語る、技・思い・伝承。
一線で働くプロが語る、技・思い・伝承。
2018.11.02
人見建設株式会社(京都府京都市) 代表取締役社長 人見 毅 氏にお話しを伺いました。
本日は、「結」の取材にご協力いただき誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。 まず初めに、京都は古い建造物が多くあって、それを維持されている非常に珍しい町だと思うのですが、その中で御社が実践しておられる伝統工法や、それを継承して近代建築に反映しているような点がありましたらご紹介いただきたいのと、その中でコンクリートに関して感じておられること、品質やその他のご意見ご要望等がありましたら、お聞かせいただきたいと思います。まずは御社の歴史あたりから、ご紹介いただけますでしょうか。
ウチは1918年創業で今年100周年になります。地元で、材木を積んだリヤカーを引いて町屋大工をさせていただいたのが始まりだと聞いています。京都ならではの町屋の改修や、大工技術を生かした仕事を長年させていただいてきたのですが、近年は木材加工の機械化が進み、プレカット工法が普及する中で、大工の技術を生かす場面が減ってきました。そんな時代ですが、ウチでは社員大工を育てて頑張っています。
それは、なかなか大変なことですよね。
はい、どうすれば我々の生きる道があるのか?必要とされるには何をすればいいのか?を常に考えています。その答えが、伝統的な技術を生かした大工仕事だと考えていますが、世間では電動工具片手に、プレカット材を組み立てる専門の大工が多く存在しています。ただ、京都の町家改修などは、カンナ・ノミなど、研ぎものを扱える大工さんでないと難しいところがたくさんあるのも事実です。古い建物は水害のことや耐震上のことなど、様々な工夫がされていますよね。
京都の中心部には、奥行の長い〈ウナギの寝床〉と呼ばれる建物も多く存在していますが、絶妙のバランスで建っています。この町に古い建物が今も多く残されているのは、そういう京都の先人の技や知恵がその要因なのかなと思いますね。
それは具体的にどういうものですか?
私達の仕事には、木材だけでなくコンクリートも必要不可欠な素材なんですね。改修工事でも、土間に配筋を行って、既存の基礎と緊結してコンクリートを打設すれば、頑丈な底盤をつくることができます。でも京都の町中では、独立した石の上に柱を立てる<石場立て>という伝統工法があって、水脈の関係などで地盤が部分的に弱くなった場合、そこだけ下がるんです。でもある程度までは追随して建物が変化をするので、全体が崩れる恐れは少ないと思います。近代的な金物工法よりも、柔らかく揺れて傾く程度なら、息のあった数人の大工さんでジャッキアップしながら修復することができますね。大学の先生方も京町屋を研究する例は多くあります。でも先ほど話したように、阪神淡路大震災以降、特に木造新築工事では金物で強固に固める必要があるんですが、大きな揺れによって傾いてしまった建物を、元の状態に戻すことは非常に困難だと思いますし、建て替えの可能性も発生すると考えます。
なるほど、条件によって工法も違うということですね。やはり、保存前提の建物を扱われることが多いんですか?
ウチは古い建物の修復などに携わることが多いんですが、仕事をする上で大切な事がいくつかあります。元の姿をなるべく変えたくないので最低限の修復にとどめるよう心掛けています。全部直してしまうと元の形が無くなってしまうので、そのために最低限何をしなければいけないのか、お客様としっかりと話をさせて頂きながら進めていきます。それに古い建物の修復ということは、社会的な面だけでなく、大工の気持ちの問題にもかかわってきます。
文化財を扱うケースは多くはないですが、これから先も残すということを考えて仕事に取り組みますので、職人さんには生き生きと仕事をしていただいています。これはとても大切なことで、いつ潰すかわからない建物や、誰が住むのかわからない建物を建るよう命じられるのと、「文化財として残る」「こういった人が住んでくれるんや」と言われるほうが、作る立場として思い入れが数倍違うと思うんですよ。ウチではそういった意味でも、下請け仕事をしないという考えを、先代から引き継いでいます。直接お客様の要望に応えること、安定して仕事を確保することは並大抵ではありませんが、お客様の顔が見える仕事を続けています。実際にお客様と接して、1年後や3年後にまたうかがった時に、新しい家族が増えていたりお店が繁盛しているなど、肌で感じることも多く、それがわかると関わった職人さんたちも、ぜったい嬉しくなると思いますよ。
話は飛びますが、先ほど質問にあったコンクリートの品質に関して思うのは、昨今の異常気象への対応のことですね。実際現場で働く労働者もそうですが、温度を一定に保たなければいけないコンクリートが、気温と時間で硬くなり、豆板と呼ばれるジャンカ(打設不良)が出るなど、品質に問題が生じることも多くあると思います。
もちろん建築計画の中で、予算と工程があることはわかりますが、本当に暑い2週間だけでもフレックスタイムを導入するなどの対策が必要じゃないかなと思います。実際、今年の暑さで2人の社員が熱中症で倒れました。気付くのが遅ければ命を落とす恐れもあります。気合と根性だけの時代ではないんですね。いつも「水分をしっかり摂って」と声掛けをするようにしていますが…。
下請けをしないと経営的には難しいと思いますが、やられていることは素晴らしいですね。
あと、先ほど人見社長が仰られたように、この異常気象の中での現場管理上、生コンクリートの品質であったり、また作業員の安全上の問題なども、すべて繋がっているんだと思います。で、こういった状況の中でも、それに耐えられる建物を作っていくということで、何か取り組んでおられることはありますか?
いま社長が仰られたように、カンナを使える大工さんしかできないことや、職人の技術継承なんかは、どのように取り組んでおられるんですか?
職人のなり手が少ない現状でも、簡単に一人前になるわけではありません。大工の世界では「4年間修行して5年目にお礼奉公」と聞きます。もちろん5年間でも一人前の大工さんとは言えませんけど、身近な目標を持ってもらえるように、ウチでも5年といった節目を設けています。ですからウチでは、新人が少し出来るようになった頃に、次の大工見習いさんが入ってくる。これまで多くの大工さんが入ってきましたが、ウチらの規模では1年ぐらいで次が入ってきても、先の大工は先輩として技術が備わっていないので面倒を見ることもできない。後輩を作るのなら4年に1度ぐらいが良いのかなと思っています。過酷な労働環境ではありますけど、離職率は少ない方だと思いますよ。というのは、入ってきたときにすぐ上の何でも話せる先輩、中堅大工さん、ベテラン大工さんがいてくれることで、どの業界も一緒やと思いますけど、何かにつまずいても「俺らの若いころはなぁ…」という感じで相談できる。そんな感じで頑張ってくれていますよ。
素晴らしい考え方ですね。
ありがとうございます。私たちの業界はバブル期のころ3K(危険・きつい・汚い)と言われていましたが労働者は多くいました。ほかの職種より稼ぎが良かった時期もありましたが、年々単価は抑えられ、労働者の労働価値が見出せない。やりがいのある仕事だと伝えられずに、この業界のなり手が、どんどん減っていくのを見てきました。でもこの前、若い社員大工さんに将来の夢を聞いてみると「もっとやりがいの感じる仕事がしたい」とか「年収1000万円の大工が居ってもいいやん」とか、夢があって、まったくその通りやなぁ…と思いました。確かに、昔の大工さんや父親から「昔は大工の棟梁になれば、経済的に、1人で孫の面倒までみることが出来た」と聞いた覚えがあります。でも今のプレカットされた材料と、組み立てるだけの一人前の大工では、技術を活かすこともできず、自分たち家族を養うことで精一杯だと思います。
ウチでは近年、新築住宅の墨付け・刻みを若手大工さんにチャレンジしてもらっています。機械加工のプレカットは短納期でコストダウンにつながりますが、手刻みを経験することによって技術の継承をしていきたい。会社にとって負担が大きく、建てたときの仕上がりでは施主さんには伝わりにくいのですが、大工の思いが詰まった現場は最近では珍しいため、現場で専門業者さんと、技術継承の話になることもあります。
この技術を今後50年・100年と引き継ぐ使命感があるので、これからの若い子達にも体で覚えてもらいたい。ウチの倉庫には銘木をはじめ構造材まで取り揃えています。新建材ではなく無垢の良さや癖など、本やネットではなく本物をみて色々な経験を積んで欲しいからです。また現場では、解体や基礎工事も一緒にすることがあります。
そういう経験も「こんな大変なことなんか」と、現地に足を運ぶことで感じることが大切で、知らないと大きなミスにつながることもあって、それを未然に防ぐことも出来ます。
あとは、京都ブランドを地元の人間がわかっていないことが多いと思います。京都の大工、京都の職人として、技術力を高めてもらいたい。そして私たちがその魅力をどう発信するのか、「京都の大工になったらどんな良いことが有るのか」と、若い子たちに伝えていかないとあかんと思います。
過去にも県外から門や家を建てて欲しいと依頼されて、遠方だと予算もかかるため、組合を通じて地元の大工さんを紹介しようとしたところ、私自身、お客様から「京都の大工にお任せするためにお願いしているので」と言われて、京都の大工職人の価値を再認識できました。ですから京都の町屋改修などに関われる環境を、大切にしていきたいと考えています。
素晴らしいお話ですね。つい聞き入ってしまいました。キザミと呼んでいるんですか?
手刻み(テキザミ)と呼びます。
その言葉は、はじめて聞きました。
そうですか、一本一本の木材の中心に墨で中心線を打って、必要な箇所に仕口(接合部分)・継手を墨で書いていきます(絵を指しながら)大きな木造住宅では350本ほどの材木に1850箇所の墨付けを、一人の大工さんにやってもらいます。
えっ!そうなんですか!
はい、複数の人が関わると間違えるため、看板板(かんばんいた=図面)を書いて組み手通りに番付けを書き入れることで、頭に入っていく。その後、手刻みといわれる加工は、任された大工さんと応援大工さんとでやることもあります。加工が一人でないのは、工期の短縮と見習い大工に手刻みの経験をしてもらうためです。
その墨付けというのが、一番目の重要な作業ということですね。
そうなんです、先ほど若手の育成について話しましたが、ウチでは入社後2年間は毎週水曜日に職業訓練校に仕事として通ってもらっています。
日にもよりますが、建築座学や実技訓練、図面を書いたりしてもらい定期的に試験もあります。2年間頑張れば修了証書をもらうことが出来ますが、会社の中ではまだまだひよっこなので、現場での見習い大工としてやっていきます。ただ訓練校で墨付けや手刻みを習得しても、実際の現場で使わないと、せっかくの技術が身に付かないですよね。ですから機会があればチャレンジしてもらいます。例えばこちらの材木に柱を差すための穴を開けますが(材木を指しながら)、穴にホゾがしっかり入るように綺麗に掃除をするんです。このような作業を見習いの子がしてくれます。建て方(構造材の組立作業)で、仕口の仕事が雑だと、硬かったり逆に柔らかかったり、天然の材木なので湿気で膨らんだり乾燥して縮んだりもします。そういった技術は経験を積んでもらうしかないですね。
すごく細かい技術が要りますね!
はい、ですから墨付けした大工さんはすごく良い勉強になるんです。自分が墨付けして、建て方になると5~6人で一生懸命に組み立てていく。
「これ間違っとるやないか!」となれば、建て方が一時中断するため、初めてだと前日は寝られないと思いますよ。当然、人間が行うことなのでミスも出ます。でも墨付けが終わった段階で、ベテラン大工さんにチェックしてもらってから刻むようにしているので、ミスは最小限になります。経験を積んでノーミスで仕上げることが大工さんの夢と聞いて、職人の心意気を感じます。
これぞ職人の魂ですわね!
プレカットのようにパートさんがパソコンで入力して、機械に運ばれた材木が自動で加工される時代ですが、私はアナログが好きです。
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